野ばらの白い花が咲くこの季節になると読み返したくなる作品です。
野ばらを丹精している家は少ないけれど、ふと見つけるとうれしくなります。可愛い花だ。この垣根をくぐったら痛い痒い傷がいっぱいつきそう。
夢から夢へ覚めていく、不思議な眠りの中にいる少年・月彦。彼の夢に現れる、銀色と黒蜜糖という名の見知らぬ二人の少年たち。野ばらの垣根で囲まれた庭、そこに出入りする2匹の猫と同じ名前をもった、彼らのたくらみとは。
読み返したくなる、と言っておいて、読書記録を確認したら再々読くらいでした。もっと読んでる気がするのは同じ登場人物たちが出てくる『夏至祭』や “銀色と黒蜜糖” (『綺羅星波止場』文庫版所収)のせいかもしれません。 『夏至祭』での黒蜜糖は可愛い。おさかなが嫌いだったりして。
さて、『野ばら』は初期長野作品のなかでも体力を使う方です。個人的には。
美しくて謎めいていて好きなんだけれど、私はイニシエーションの話と読んでしまう。「ぼくは生まれ出ずに死んでしまうかもしれない」という子どもの気持ちを真正面からくらって、ざわざわします。
印象的なのが、月彦を追い詰める黒蜜糖のセリフです。
「たゞし、野ばらの垣を出られると思ったら大間違いだよ。きみには出られない。」
長野まゆみ著『野ばら』文庫版p.93より
高校のころの私は、この本の感想をこう残しています。
「野ばらの垣を抜けたって、そこに大した世界はないのかもしれない。野ばらの棘は痛いし。」
うーん。そんな風に思うのはお前が、垣根を抜けたらもう庭に戻ってこられないと思い込んでいるせいだよ。庭と外とを越境すればいいんだよ。猫のように。

イラストは黒蜜糖です。
今回初めて、コットマンの中目水彩紙を使いました。いつも使っているマルマンのドローイングブロックよりも乾き方が早くて、ぼかしが追い付かない!それで吉祥顔彩を途中でドクターマーチンカラーインクに切り替えました。カラーインクとの相性は良いです。にじみすぎず。
黒蜜糖の「薄水青のリボン」はドクターマーチンのアイスブルーです。涼しげで妖しくて、私の中でベストオブ黒蜜糖色です。奴のリボンは優しい水色ではない気がするんだよな。
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