児童書

本の話

『花豆の煮えるまで 小夜の物語』(安房直子)―山の娘でなくなるまで

山奥の小さな温泉宿に暮らす小夜は、風になって谷間を飛び、鬼の子や紅葉の精と話をする。小夜には母がない。母は山んばの娘で、小夜がまだほんの小さい頃に、ふるさとである山んばの里に帰ってしまったのだという。山のものたちの声が聴ける小夜は、山の精で...
イラスト

ルミらくがき、『黒い釜』試論

ここのところ図書館で天沢退二郎を返して、天沢退二郎を借りていく人になっています。 『オレンジ党と黒い釜』の冒頭の、謎の引き込み線の部分(不気味で大好きなのだ)だけ読むつもりで、最後まで全部読んでしまいました。これはいつかこのブログの“本の話...
本の話

『クラバート』(プロイスラー)―魔法の外へ

『クラバート』を初めて読んだとき、私は親元を離れて一人暮らしを始めたばかりの19歳だった。受験勉強を終えてふいに手に入った「自由」をかみしめ、反動のように本を探して読んでいた。 すでに子どもでなくなった私が読んでも、おもしろい児童書ファンタ...
本の話

『十一月の扉』(高楼方子)―物語は導く

十月の末にハロウィンが終わると、早くも街は十二月の準備を始める。クリスマスに向けてである。 毎年、ちょっとせわしなさすぎるんじゃないか、十一月はどこへ行った、と思いながら、それでも、きらびやかな缶に詰められたお菓子やクリスマスフレーバーの紅...
本の話

『ギリシア神話』(石井桃子編)―いちばん低い音の弦

ああ、この表紙だ。この、テラコッタ色の表紙。なつかしい。 これは、私が初めて「ギリシア神話」にふれた本です。 なぜ、“ももたろう”や“シンデレラ”を差し置いて、『ギリシア神話』がいきなり子ども部屋の本棚に用意されていたのか不思議ですが、たぶ...
本の話

『メメント・モーリ』(おのりえん)―自らの力で

鬼の国には“十年儀式”という儀式がありました。 鬼の国で十年を過ごした者は、十年目の“誕生日”を国中の鬼たちから祝ってもらえます。儀式の中で、十歳になる鬼の子どもは、自分が何者になりたいかを宣言します。それによって正式に、一人前の鬼として国...
本の話

『光車よ、まわれ!』(天沢退二郎)―隠された宝の冒険

これは、本読みの手から手へと受け渡されてきた、隠された宝です。『光車よ、まわれ!』。詩人の天沢退二郎が、子どもたちに贈った冒険物語です。 さて、1973年初出のこの本が、30年以上の時間を経て、高校生だった私、石井の手に届くまでには、すでに...
本の話

『えんの松原』(伊藤遊)―怨のゆくえ

地面を歩く。湿った松葉のじくじくした感じ。小枝を踏む音。生き物が身を潜めている気配がする。 五感が、物語の中に没入していく。 児童書は、「この本が、その子どもが読書の楽しさを知る最初の本かもしれない」というのを常に想定して書かれている。 だ...
本の話

『幻狼神異記』シリーズ(横山充男)―野性の呼び声

およそだいたいの児童書は、中盤くらいまで読むと、書き手が「何を是として」「結論をどこに着地させたいのか」おぼろげにでもわかるものなのだけど、このシリーズは難しかった。 もちろん横山充男さんはわざとそうしていて、『児童文学の書き方』という著書...
本の話

『北斗学園七不思議』シリーズ(篠田真由美)―魔女の系譜

物語を形作る主要人物の系図が、「本人(男)、父、祖父、(父と違う価値観を持つ大人としての)伯父、(同性の)親友」で閉じている物語はたくさんある。 ありすぎていちいち気に留めないほど存在します。 「父から息子へ受け継がれる力」というのは普遍的...