恩田陸

本の話

『六番目の小夜子』(恩田陸)―伝説の聖なる時間

「恩田陸の本って中盤までは最高におもしろいのに、すっきり終わらないんだもんなあ」 友人は楽器の練習をしながら言った。夕暮れの教室で彼女は大きな弦楽器をゴオゴオ弾き、私は傍らで机に浅く腰かけていた。メトロノームに合わせて、弦楽器はさっきから同...
紀行

柳川『月の裏側』紀行 

観光にはあいにくの天気でした。 けれど、梅雨空につつまれ、堀から湿気が上がり、透明な水蒸気のキューブに閉じ込められたような街は、『月の裏側』を満たす空気を思いださせるものでした。 恩田陸の『月の裏側』は「箭納倉(やなくら)」という九州の水郷...
イラスト

蛇行する川のほとりイラストまとめ

恩田陸著『蛇行する川のほとり』のイメージイラスト、らくがきのまとめです。 初出のもの、いままでに他所で発表したもの、過去の雑誌読者投稿など。★毬子(上)と真魚子(下) 初期案。元は、前回記事(『蛇行する川のほとり』(恩田陸)―絵のなかの遠い...
本の話

『蛇行する川のほとり』(恩田陸)―絵のなかの遠い黄昏

彼女の長い髪と肩の輪郭が、踊り場の高い窓から差し込む光にきらきらと輝いていたのを覚えている。恩田陸著『蛇行する川のほとり』文庫版p.12より「あたしたち、絵を仕上げなくちゃいけないわ」  彼女は、おもむろにそう言った。同p.13より 毬子は...
本の話

『北見隆装幀画集 書物の幻影』(北見隆)―語られるべき謎たち

しんとした画面の中では、簡素なシルエットの人間が、凍りついた顔でたたずんでいる。それが羽の生えた天使だったり怪物だったりすることもあるけれど、画面の中はいつも静かだ。その静けさの中、これから何か不穏な事件が起こる予感に満たされている。あるい...
イラスト

二月最後の日の転入生

恩田陸『麦の海に沈む果実』より、冒頭の場面。 列車は湿原のただなかを走り、孤絶された学園“三月の王国”へと向かう。 何度も読み返していて、その本と出会っていない人生が想像できない、という本が何冊かあります。『麦の海』はそのうちの一冊です。【...
本の話

『球形の季節』(恩田陸)―夕焼け色の哀しみが町を覆う

ひとつの町がある。 場所は東北地方のどこか。古くは交通の要衝として栄え、往時の面影を残す町並みがところどころに残っている。特徴と言えばそのくらいだ。小さな市街地のほかは一面の田んぼが広がる、眠ったような町で、三方を蛇行する川に、残りの一方を...
本の話

『麦の海に沈む果実』(恩田陸)―三月、まどろみの終り

再読していて、学園にやってきた理瀬が寮の部屋から湿原を見渡すシーンに差し掛かったとき、奇妙な懐かしさと安堵感があった。それは単に「読んだことがある」を超えて、「ああ、またこの部屋に戻ってきたんだ」という感慨だった。まるで自分自身の記憶がよみ...