本の話

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『六番目の小夜子』(恩田陸)―伝説の聖なる時間

「恩田陸の本って中盤までは最高におもしろいのに、すっきり終わらないんだもんなあ」 友人は楽器の練習をしながら言った。夕暮れの教室で彼女は大きな弦楽器をゴオゴオ弾き、私は傍らで机に浅く腰かけていた。メトロノームに合わせて、弦楽器はさっきから同...
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『花豆の煮えるまで 小夜の物語』(安房直子)―山の娘でなくなるまで

山奥の小さな温泉宿に暮らす小夜は、風になって谷間を飛び、鬼の子や紅葉の精と話をする。小夜には母がない。母は山んばの娘で、小夜がまだほんの小さい頃に、ふるさとである山んばの里に帰ってしまったのだという。山のものたちの声が聴ける小夜は、山の精で...
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『遊覧旅行』(長野まゆみ)―日常を変奏する

なんとなくちょっと取り出して読むのにいい本だ。日常を離れた、涼しい世界に連れて行ってくれる。 1990年代、JR西日本の観光キャンペーンのために書かれた短編が集められている。前半は“遊覧”と題された章で、二人連れの女性たちが京都・大阪・神戸...
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『蛇行する川のほとり』(恩田陸)―絵のなかの遠い黄昏

彼女の長い髪と肩の輪郭が、踊り場の高い窓から差し込む光にきらきらと輝いていたのを覚えている。恩田陸著『蛇行する川のほとり』文庫版p.12より「あたしたち、絵を仕上げなくちゃいけないわ」  彼女は、おもむろにそう言った。同p.13より 毬子は...
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『それからはスープのことばかり考えて暮らした』(吉田篤弘)―黄金色のスープ

丁寧に作られたサンドイッチや「おふくろの味」のスープから、暮らしの手触りが生き生きと伝わってきた。まずそれを、素敵だ、やってみたい、と思ったのを覚えている。ただ、この物語を最初に読んだとき私はあまりにも子どもで、「やっぱりもっと、商店街の事...
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『クラバート』(プロイスラー)―魔法の外へ

『クラバート』を初めて読んだとき、私は親元を離れて一人暮らしを始めたばかりの19歳だった。受験勉強を終えてふいに手に入った「自由」をかみしめ、反動のように本を探して読んでいた。 すでに子どもでなくなった私が読んでも、おもしろい児童書ファンタ...
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『夏至祭』(長野まゆみ)―いつかまた祝祭の季節

夏至が近づいてくると、なんとはなしに気持ちが浮き立つ。次々に花が咲き、甘い蜜の匂いが漂い、青い夕暮れに包まれる。その空気と薄明の中で、今年もまた『夏至祭』が読みたくなるのだ。 電灯をつけないままの部屋に、ろうそくだけ灯す。これで十分明るい。...
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『秘密の花園』(三浦しをん)―花園は私たちのうちに

幼稚舎から高等部を備える聖フランチェスカ女学園は、「秘密の花園」と呼ばれるにふさわしいカトリックの女子校だ。少女たちの真面目さと育ちの良さでつくられる穏やかで整った時間が、この花園を包んでいる。しかし、その均質な穏やかさは、彼女たちをときに...
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『北見隆装幀画集 書物の幻影』(北見隆)―語られるべき謎たち

しんとした画面の中では、簡素なシルエットの人間が、凍りついた顔でたたずんでいる。それが羽の生えた天使だったり怪物だったりすることもあるけれど、画面の中はいつも静かだ。その静けさの中、これから何か不穏な事件が起こる予感に満たされている。あるい...
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『ヒュッゲ 365日「シンプルな幸せ」のつくり方』(マイク・ヴァイキング)―冬ごもりのために

ヒュッゲ(Hygge)。デンマーク語である。 日本語訳は難しい。「ささやかながら満たされた幸福な気分」、また「そのような気分にさせるものごとのさま」といったところだけど、本を一冊読んでも、ヒュッゲは、ヒュッゲであるとしか言いようがない。イラ...