本の話

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『十一月の扉』(高楼方子)―物語は導く

十月の末にハロウィンが終わると、早くも街は十二月の準備を始める。クリスマスに向けてである。 毎年、ちょっとせわしなさすぎるんじゃないか、十一月はどこへ行った、と思いながら、それでも、きらびやかな缶に詰められたお菓子やクリスマスフレーバーの紅...
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『サマー/タイム/トラベラー』(新城カズマ)―未来がこちらへやってくる

昔の友達に再会したみたいだった。 私が『サマー/タイム/トラベラー』を初めて読んだのは中学の時だ。鶴田謙二の表紙イラストの、不思議なたたずまいの女の子に惹かれて手に取った。作中の彼らは年が近くて、私と同じように本が好きな彼らを、友達だと感じ...
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『Omegaの視界』(閂夜明/天村血花)―闇の生物学

すべての生物は他の生物や環境との関わりを通じて、生存をはかる。 さて、二つの生物種が同じ生態的地位、限られた同じ資源、同じ空間を占有するとき、この二つの種は仲良く共存するだろうか。 まさか。ゾウリムシとヒメゾウリムシは同じ水槽で共存しない。...
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『夜啼く鳥は夢を見た』(長野まゆみ)―深泥の睡り

夏のさかり、祖母の家で休暇を過ごすため、紅於(べにお)と頬白鳥(ほおじろ)の兄弟は沼のほとりにやってきた。「この沼には子供が沈んでる」と従兄の草一は言う。しかし幼い頬白鳥は、兄や草一の止めるのも聞かず、水蓮の咲く沼にたちまち惹きつけられる。...
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『狩人の悪夢』(有栖川有栖)―いつか夢の果てるまで

推理小説家の有栖川有栖は、悪夢をモチーフとする人気ホラー小説家の白布施と知り合いになり、山奥にある彼の自宅に招待された。しかし、一夜明けて近隣の住宅で不審な死体が発見される。その首は矢で横ざまに貫かれていた。 犯罪学者の火村英生と、著者と同...
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『湿原力 神秘の大地とその未来』(辻井達一)―湿原の王国

湿原にはまるつもりはなかった。はじめ湿原に興味はなかったのだ。 多くの人にとって湿原は「夏が来れば思い出す、はるかな」場所であり、夏が過ぎればまた忘れてしまう。私もそうだった。 ところがあるとき、一冊の本が私を湿原に引き寄せた。 地球上の水...
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『超少年』(長野まゆみ)―ヴァイオレットの向こう側

どうして菫色なんだろう。そういえば。 長野まゆみの小説にはたびたび菫色のモチーフや、菫色の瞳を持つ少年が登場する。私の記憶にとりわけ印象的に残っているのは『テレヴィジョン・シティ』に出てくる才気煥発な少年、イーイーだ。彼の瞳は菫色で、彼が訳...
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『一千一秒物語』(稲垣足穂)―いま封を切ったばかりのシガレット

今からちょうど100年前に書かれた、ぴかぴか光るニッケルメッキのメルヘン集だ。さびもしなければ埃もかぶらない。ねじを巻くとギムゲム動き出すよ。  このとんでもなく洒脱で、今なお新鮮な魅力を持つ不思議なショート・ショートは、大正12年(192...
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『神さまたちの遊ぶ庭』(宮下奈都)―さいわいの住むところ

「神さまたちの遊ぶ庭」。タイトルが、記憶のふちに引っかかりました。 これは、このフレーズは、どこかで聞いたことがあるはず。どこだろう……? 小さな町の図書館で、並んだ背表紙をぼんやり眺めていたときのことです。私はまだ宮下奈都という作家を知り...
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『白い花の舞い散る時間 ガールズレビュー』(友桐夏)―伏せられたカードのゲーム

友桐夏は、読み手を、その世界にn+1番目の少女として迎える。 白い洋館のドアを開けると、彼女たちがいっせいにあなたを見返す。一人はきょとんとして、また一人は気さくに、一人は無邪気に瞳を輝かせ、一人はちらりと一瞥して、それぞれあなたを迎えるだ...