本の話

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『雨更紗』(長野まゆみ)―水鏡が揺らぐとき

ページを開いた時に、これから起こることが直感される。 それは筋が読めてしまうのとは違う。これから起こることの必然性を語るような、この書き出しがなんともいえない。 掘割の墨面に、碧く水銹が浮いている。雲はひくく垂れ、通り雨を予感させる温んだ風...
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“Larme(ラルム)”―汝、滅びと破壊を飼いならすこと

唐突にキャミソールが描きたくなり、キャミソールの魅力を熱く解説したペーパーを作成して、友人に送った。突然送られるほうもびっくりだ。まあ、周りに人のいないところで開けてね、と事前に知らせたし。……キャミソールはいいぞ。あの儚くて実用性のない感...
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『46番目の密室』(有栖川有栖)―ロックド・ルームへようこそ

その作品を読む前から、有栖川有栖、という変わった名前は知っていた。 図書館の文庫棚に収まって、魅惑的なタイトルがこちらに謎をかけてきていたからだ。『海のある奈良に死す』、『月光ゲーム』、『ロシア紅茶の謎』―タイトルの言葉の選び方からして、あ...
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『餅と日本人』(安室知)―稲作文化の輪郭にふれる

年末は悪友たちと中華料理を囲んで、民俗学や古典の話でわあわあ盛り上がったのでした。恐ろしい話や不思議な話がいくつになっても大好きなのです。 ありがたいことに、この宴会メンバー、皆どんなに飲んでいても情報の出典は正確に言う。言いたがる。言えな...
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『家守綺譚』(梨木香歩)―ジョバンニの往還

友人は、湖にボートで漕ぎ出し、行方を絶った。 駆け出しの物書き・綿貫征四郎は、空き家となったその友人の実家に、家守(いえもり)として住まい始める。 百年ほど前、のどかな疎水べり―琵琶湖疎水が、都へ向かっていく手前の、山のふもとの土地での出来...
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『ギリシア神話』(石井桃子編)―いちばん低い音の弦

ああ、この表紙だ。この、テラコッタ色の表紙。なつかしい。 これは、私が初めて「ギリシア神話」にふれた本です。 なぜ、“ももたろう”や“シンデレラ”を差し置いて、『ギリシア神話』がいきなり子ども部屋の本棚に用意されていたのか不思議ですが、たぶ...
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『ルナティックス 月を遊学する』(松岡正剛)―月がとっても青いから

月だ。月だらけだ。めくってもめくっても、月ばかり現れる。 こんばんは。これは松岡正剛の、月にまつわるエッセイ集です……そんな穏当な紹介では表現しきれないくらい、月の妖しい魅力がぎっしり詰め込まれていて、今にもページがびかびかと発光しそうだ。...
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『球形の季節』(恩田陸)―夕焼け色の哀しみが町を覆う

ひとつの町がある。 場所は東北地方のどこか。古くは交通の要衝として栄え、往時の面影を残す町並みがところどころに残っている。特徴と言えばそのくらいだ。小さな市街地のほかは一面の田んぼが広がる、眠ったような町で、三方を蛇行する川に、残りの一方を...
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『海南小記』(柳田国男)―民俗学者とバカンスへ

職場のエッセイで「民俗学、特に柳田国男が好き」と、ちらっと書いたら、思いのほか内外から反響がありました。書いてみてよかった(周囲には見渡す限り理系出身者しかいないし、私も理系です)。 「柳田国男なら知ってるよ、『遠野物語』とかね、読んだこと...
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『樹上のゆりかご』(荻原規子)―ゆりかごゆれる季節

息をするのも許されない緊張のなかで、物語が始まる。張り詰めた静寂が耳を聾する。あたりは暗闇。不安と高揚が同時に肌をびりびりさせる。押し出されるように、前へ。 これは、奇跡的なバランスで成り立つ、一度きりの夏の話だ。 絵を描くのに細部を確認し...