『テレヴィジョン・シティ』(長野まゆみ)―Circulationを解いて

 さあ、『テレヴィジョン・シティ』。
 長野まゆみの“円環脱出系”作品の、これが最大難度じゃないか。上に行っても下に行っても、なかなか出口がみつからない。遠心力で壁に叩きつけられる。それでも外に出ようとする。

 アナナスとイーイーは、《鐶の星》の巨大なビルディングの中で暮らしている。彼ら少年たちだけのために、コンピュウタシステムで快適に管理された空間だ。アナナスは、会ったことのない両親に向けて手紙を書く。いつかは、イーイーと一緒に《鐶の星》を脱出して、碧い惑星に住むという両親に会いに行くことを夢見て。

 さて、どうしてみんな、この作品を「解こう」とするんだろう。いえ、私もそうなんですが。
 Arianac(作中に登場する暗号)を解いて、ビルディングの構造を描き起こして、全力でこの作品の「出口」を探そうとしてしまう。それは、主人公であるアナナスがビルディングの出口を探す、その必死さにつられてしまうのはあると思う。

 でもきっと、それだけではない。
 そもそも、私たちは閉じ込められたら外に出ようとする生き物なんだ。柵で囲われたら抜けようとする。殻があったら破ろうとする。このビルディングのような、完璧に調整された循環(Circulation)とは相性が悪い。それが、長くはもたないことを知っているからです。
 やはり、物語の後半で、完璧だった調整は崩壊し始める。温度管理されていたはずのビルディングに吹雪が吹き込みだす。そして、イーイーは徐々に弱っていく。アナナスは彼を助けるために奔走します。しかし、システムが「完璧な調整」のために仕組んだシナリオでは、イーイーが助かるためにはアナナスを……、ここにも、残酷な循環が存在する。

 どうすれば、循環の破綻をかわして、循環の外へ出られるだろう。
 長野まゆみは、生命の一番の謎を、読み手が謎のまま触れるように、この作品に閉じ込めた。

 越境すること、交差することが生命を生命たらしめる。作中の少年たちは外へ出られない代わりに、個人の感覚の境界をなくす《クロス》でシステムを攪乱します。そしてついに、アナナスはロケットに乗って《鐶の星》を離脱し、イーイーと約束した碧い惑星へと向かいます。

背中合わせのアナナスとイーイー

 イラストは、イーイー(左)とアナナス(右)です。背中合わせのようなふたり。

 私が中学生の時の読書ノートをめくってみると、上巻の感想は「これ、おもしろいよ!」と書いてあって、下巻は「つらい。焦る。」と書いてあるの正直このうえないなと笑ってしまったんですけど、後半は切ないです。絶望的な状況になっていくのに、ふたりは本当に友達になる。

 このふたりは、(少なくとも“アナナス”の視点では)最初はルームメイトから始まって、だんだんと親友になっていくのが良いのです。序盤から仲はいいんだけど、相手を理解しようとして、そのうち理解できないことが分かって、それでも大切だっていう。きっと、その気持ちは残るよ。そう、思うしかない。思うしかないのです。

 <ことばは消えても文字は残る……、それが僕の望みだ>

長野まゆみ著『テレヴィジョン・シティ』新装版文庫 p.694より

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◆イーイーとアナナスの服のデザイン。足元まで考えたのに結局使わなかったり。
余談ですが、彼らが履いている移動装置「サーキュレ」も、Circulation(循環)からきていそうです。それじゃあ確かに外には出て行けないな。


◆選書と、ビルディングをさまようアナナスのイラスト。

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