本の話

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『光車よ、まわれ!』(天沢退二郎)―隠された宝の冒険

これは、本読みの手から手へと受け渡されてきた、隠された宝です。『光車よ、まわれ!』。詩人の天沢退二郎が、子どもたちに贈った冒険物語です。 さて、1973年初出のこの本が、30年以上の時間を経て、高校生だった私、石井の手に届くまでには、すでに...
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『少年アリス』(長野まゆみ)―卵の円環

親友と夜中の学校へ忍び込んだアリスは、そこで行われているもう一つの授業を目にする。見知らぬ生徒たちに、奇妙な授業内容。アリスは、偶然ポケットに入れていた石膏の卵のせいで、なぜか彼らの仲間と間違えられ、授業に加わるが……。 かつて、私の通って...
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『給水塔 Beyond The Water Tower』(比留間幹)―ノスタルジアより遠く

表紙からすでに、「これはなに?」という感じがする。 給水塔の写真集です。 給水塔。 鉄塔と並んで、人の認識のあわいにある建造物のひとつじゃないでしょうか。同じ風景を毎日眺めていても、給水塔の存在に気づく人と気づかない人がいる。見慣れてないと...
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『野ばら』(長野まゆみ)―野ばらの垣根の向こうには

野ばらの白い花が咲くこの季節になると読み返したくなる作品です。 野ばらを丹精している家は少ないけれど、ふと見つけるとうれしくなります。可愛い花だ。この垣根をくぐったら痛い痒い傷がいっぱいつきそう。 夢から夢へ覚めていく、不思議な眠りの中にい...
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『アクエリアム』(森深紅)―私たちはだれ?

水族館で展示生物に割り振られた、謎の管理番号。その仕組みを解き明かそうとしていた遠海学園中等科三年の瞳子(とうこ)は、学年一の問題児、遊砂(ゆさ)に声をかけられる。訝しむ瞳子に、遊砂は協力を持ちかける。遊砂が追っていたのは、学園の生徒一人ひ...
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『麦の海に沈む果実』(恩田陸)―三月、まどろみの終り

再読していて、学園にやってきた理瀬が寮の部屋から湿原を見渡すシーンに差し掛かったとき、奇妙な懐かしさと安堵感があった。それは単に「読んだことがある」を超えて、「ああ、またこの部屋に戻ってきたんだ」という感慨だった。まるで自分自身の記憶がよみ...
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『聲』(川田順造)―声のブロードキャスト

タイトルは「声」の旧字体です。表示されないかもしれないので書いておきます。 文化人類学者の川田順造が、主に専門であるアフリカの例を引きながら、人の声、肉声のもつ力について幅広く語る。呼ぶ、歌う、奏する、ほめる、あてこする、真似るなど、個人か...
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『えんの松原』(伊藤遊)―怨のゆくえ

地面を歩く。湿った松葉のじくじくした感じ。小枝を踏む音。生き物が身を潜めている気配がする。 五感が、物語の中に没入していく。 児童書は、「この本が、その子どもが読書の楽しさを知る最初の本かもしれない」というのを常に想定して書かれている。 だ...
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『星条旗の憂鬱 情報分析官・葉山隆』(五條瑛)―ここは極東(ファーイースト)

「再開を祝して、ロシア式の挨拶で」五條瑛著『星条旗の憂鬱 情報分析官・葉山隆』p.231より 1話目から日米地位協定の話でやられた! 首根っこつかんで揺さぶられたような心地で、一気に目が覚めた。そうだった、五條瑛はこういう書き手だった。 エ...
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『閉じ箱』(竹本健治)―推理作家の宝石箱をのぞく

軽井沢の観光地図を見たことがある。雑木林を縫うようにして小道がまばらな網目のように走り、それに沿って別荘がぽつん、ぽつん、と配置されているのだった。 なるほど、二人の少年が冬の夜、枯枝を踏みながら通ったのはこんなところか、と思いながら「雑木...