『閉じ箱』(竹本健治)―推理作家の宝石箱をのぞく

 軽井沢の観光地図を見たことがある。雑木林を縫うようにして小道がまばらな網目のように走り、それに沿って別荘がぽつん、ぽつん、と配置されているのだった。
 なるほど、二人の少年が冬の夜、枯枝を踏みながら通ったのはこんなところか、と思いながら「雑木林」と書かれた地図の灰色い部分を指でなぞってみた。小道から小道へ。北から南に向かって。そうすると、彼らが目指す療養所の、カシオペアの形に並んだ明かりが見えてくるような気がした。

枯木立と少年、カシオペア座

 推理作家・竹本健治の初期短編集。収録作には推理小説でないものもあります。ミステリにホラーにファンタジーにジョブナイル、異なるジャンルが詰め込まれていながら、カラーが統一されている。竹本健治の短編集なら私はこれが一番好きです。

 イラストは “けむりは血の色” 。ほんの二十数ページなのに、鮮烈な印象を残す、残酷で美しい作品です。これ、いま読み返してみたら、ひとことも軽井沢だとは言ってなかった(あれ?)。
 それどころか、時代も特定できないように書かれてるんじゃないか。(この作品の発表された)1990年代のようにもとれるし、もっとずっと前の話でもおかしくはない。芳也とヨタカの二人は別荘でもっぱらラジオを聞いたりトランプをしたりしてるけれど、テレビは出てこない。ないのかもしれないし、単に電波が悪いのかもしれないですね。雪だし。

 竹本健治の描く子供たちは、なにか本当は人間でない強いもの恐ろしいものがいっとき子供の姿をとっているみたいだ。もしかしたらそのままの姿でどこの時代にだって行けるのかもしれない。
 収録作 “夜は訪れぬうちに闇”、“七色の犯罪のための絵本” もそんな子供たちの出てくる作品です。

 ほかにも怖い話、意表を突く話がたくさん入ってます。

 文庫が復刊して手に入りやすいのですが、ハードカバー版の、


 これですね、ひとつひとつの作品の扉ページに絶妙な挿絵がついていて、めくっていて楽しいです。想像をかき立てられる。

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