studio_ishii

周年記念記事

寒宵堂五周年

先日、机の整理をしていたらこんなものが出てきました。  まだ寒宵堂を立ち上げる前、Webという場所でなにをやろうか考えていた時のメモです。2018年当時、既にTwitterやPixivなどのSNSが全盛であり、個人ブログは勢いを失っていきつ...
イラスト

二月最後の日の転入生

恩田陸『麦の海に沈む果実』より、冒頭の場面。 列車は湿原のただなかを走り、孤絶された学園“三月の王国”へと向かう。 何度も読み返していて、その本と出会っていない人生が想像できない、という本が何冊かあります。『麦の海』はそのうちの一冊です。【...
本の話

『一千一秒物語』(稲垣足穂)―いま封を切ったばかりのシガレット

今からちょうど100年前に書かれた、ぴかぴか光るニッケルメッキのメルヘン集だ。さびもしなければ埃もかぶらない。ねじを巻くとギムゲム動き出すよ。  このとんでもなく洒脱で、今なお新鮮な魅力を持つ不思議なショート・ショートは、大正12年(192...
カード

クリスマスカード(水蓮の冬の休暇)

冬の休暇のことを考えてると、もう授業なんて手につかないね。 今年のクリスマスカードです。ちょっと幼い、『三日月少年漂流記』くらいの水蓮かな。 長野まゆみ作品のクリスマスの楽しそうなことといったら。あんな町にいたら、それこそ12月に入った瞬間...
本の話

『神さまたちの遊ぶ庭』(宮下奈都)―さいわいの住むところ

「神さまたちの遊ぶ庭」。タイトルが、記憶のふちに引っかかりました。 これは、このフレーズは、どこかで聞いたことがあるはず。どこだろう……? 小さな町の図書館で、並んだ背表紙をぼんやり眺めていたときのことです。私はまだ宮下奈都という作家を知り...
寒宵堂雑記

万聖節の餐

「父よ、あなたの慈しみに感謝して、この食事をいただきます」 「ここに用意されたものを祝福し、私たちの心と体を支える糧としてください」 「アーメン」 “この食事”、“ここに用意されたもの”? なにも用意されてないけどな……? あっ、きみたち、...
本の話

『白い花の舞い散る時間 ガールズレビュー』(友桐夏)―伏せられたカードのゲーム

友桐夏は、読み手を、その世界にn+1番目の少女として迎える。 白い洋館のドアを開けると、彼女たちがいっせいにあなたを見返す。一人はきょとんとして、また一人は気さくに、一人は無邪気に瞳を輝かせ、一人はちらりと一瞥して、それぞれあなたを迎えるだ...
クッキング

アビと宵里のアイスドロップ

宵里はクーラーボックスに手をのばし、ためらわずにパイナップルを取りだした。それらのアイスドロップは昨日の罐詰で作ったものだ。といっても手間はかゝらない。罐入りフルウツをシロップごとジュウサーで攪拌する。それをボール型が十二個ならんだ製氷皿に...
寒宵堂雑記

北海道夏手帖

北海道って夏は涼しいんでしょう、と本州の方に言われるたび、いつも「ええ、まあ……」とあいまいな笑みを返すことしかできない。観光への期待を裏切りたくない精一杯の誠意だ。 ついに、ああついに、今年こそ言ってしまう。 北海道の夏はたいして涼しくな...
本の話

『雨更紗』(長野まゆみ)―水鏡が揺らぐとき

ページを開いた時に、これから起こることが直感される。 それは筋が読めてしまうのとは違う。これから起こることの必然性を語るような、この書き出しがなんともいえない。 掘割の墨面に、碧く水銹が浮いている。雲はひくく垂れ、通り雨を予感させる温んだ風...