アビと宵里のアイスドロップ

 宵里はクーラーボックスに手をのばし、ためらわずにパイナップルを取りだした。それらのアイスドロップは昨日の罐詰で作ったものだ。といっても手間はかゝらない。罐入りフルウツをシロップごとジュウサーで攪拌する。それをボール型が十二個ならんだ製氷皿に入れて冷凍。そんな作業を何度か繰り返し、パイナップル、苺、パパイヤ、ライム、ピーチ、などのアイスドロップを作った。

長野まゆみ著『天球儀文庫』所収 “ドロップ水塔”p.135より
アイスドロップの写真

 長野まゆみは作中によくお菓子を登場させます。
 『海猫宿舎』の「たっぷりの蜂蜜と、楓シロップと、クリイムと、木の果のジャムがついてくる」マフィン、『夏至祭』の「水蜜を葛で固めたもの」、“黄金の釦”の「いろとりどりのジュレがココ椰子ミルクにひたっている」ピカピカ、という名前の不思議なデザート、など。ほかにもたくさん。
 みんな、少し頑張れば作れそうに身近で、しかし、確実に日常の枠からはみ出すきらめきをもった食べ物です。
 その細やかな描写が、彼ら登場人物たちの暮らしている世界に説得力を与えています。私はそういう、ささやかな仕掛けが好きです。

 さて、そんな空想の長野まゆみスイーツを。
 実際に作ってみた。

球形の製氷皿、ミキサー、まな板と包丁、果物の缶詰

 【材料】
  ・フルーツの缶詰(200ml程度のサイズの小さいものでちょうど製氷皿1枚分)

 【用具】
  ・球形の氷が作れる製氷皿(商品名:ゆきポン、100円均一で入手)
  ・ミキサー(機種によっては充電しておく)
  ・包丁とまな板
  ・スプーン(出来上がったものをくりぬくため)

1. 缶詰のフルーツは2-3cm大に切り、シロップごとミキサーにかけてピュレ状にする。

2. できあがったフルーツピュレを、製氷皿本体(穴の開いてない方)に均一に注ぎ入れる。
 このとき、製氷皿の半球状の部分から5mm程度液面が上になるように、余分に注ぐ。

3. 製氷皿の蓋(穴がある方)をかぶせて、本体との隙間がないようにきっちり閉める(蓋の穴からピュレが少し洩れるくらいが充填がうまくいっており、出来上がりがきれいな球形になる)。

4. 製氷皿を冷凍庫に入れて3-4時間凍らせる。

5. 取り出して蓋をそっと開け、アイスドロップと製氷皿の間にスプーンを垂直に近い角度で差し込んで、割れないようにくりぬく。

 ……これ、きれいに作るの難しいな!?
 きっちり蓋を閉めたつもりでも、凍る過程で隙間ができて、球形のアイスドロップの周りに「バリ」ができてしまったり、取り出す過程で割れてしまったりする。
 彼らは毎年やってるから慣れているのか。それにしても、「そんな作業を何度か繰り返し」5種類も作るのは、手間、充分かゝってるよ、君たち!
 もちろん凍らせる過程で時間も必要なので、「昨日の罐詰で」と日をまたぐ描写になるのも納得がいく。製氷皿が何枚もあるなら一度に作れるけど、彼らもそうではないみたいだしね。
 製氷皿1枚で作るときは、できあがったアイスドロップを保存容器(ジップロック等)に入れて冷凍を続けておくとよいです。今回はマンゴー、パイナップル、桃で作りました。そして力尽きた。

 ひんやり冷たくて、シャキシャキした歯触りのなかに、ちょっと果肉が残っている感じが美味しい。特にパイナップルは酸味が爽やかでおすすめです。

 夏空の下、友達と並んで食べたなら、もっと美味しいに違いない。
 “ドロップ水塔”は、アビと宵里、二人の少年の友情を描いた『天球儀文庫』連作の最終話です。この夏を最後に、彼らはそれぞれの道を歩いていくことになる。
 数ある印象的な長野まゆみスイーツのなかでも、私はこのアイスドロップをよく覚えています。それは誰よりも、物語の語り手であるアビが、宵里と過ごす夏を記憶にとどめておこうとひたむきだからです。クーラーボックスのなかの色とりどりのアイスドロップ、それを取り出す宵里の日に焼けた手の表情までが、アビの視点で鮮やかに描かれる。その鮮やかさが、少しせつない。

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