ティクターリクという魚

 前の記事(『アクエリアム』(森深紅)―私たちはだれ?)から。

 『アクエリアム』(森深紅 著)で、夜中のプールに忍び込んだ瞳子と遊砂が話をするシーン。瞳子は出会ったばかりの遊砂をある生物にたとえます。

 瞳子は遊砂が投げ出した脚を、自分のものと見比べる。太陽に磨かれた逞しい遊砂の脚は、質感も形も明らかに異なっていた。
「ティクターリク」
 滑らかに削られた櫂のような腕を見て、瞳子はある古代生物の名前を口にした。
「イヌイットの言葉で、大きな淡水魚っていう意味なんだって。脊椎動物の進化をたどるうえで貴重な生物で、腕立て伏せのできる魚だったらしいの」

森深紅著『アクエリアム』p.21上段より

 不思議な語感の名前ですね。
 月光に照らされたプールサイドで二人の少女がひそやかに会話する。そういう状況もあいまって、これを読んでうっとりした私の頭の中には、銀色のひらひらとした魚が優雅に漂っておりました。

 さてティクターリク、いったいどんな魚なんだろうと後日調べてみたところ、うわなんだこれ

ワニのような古代魚ティクターリクとあきれる遊砂

 ……ええと。遊砂、きみ怒っていいぞ(笑)。

 ちなみに体長は2.7mあるそうです。ワニくらいある。

 以下に参考資料です。ティクターリクは2004年発見なので、近年の資料をあたってみる必要がありました。

『古生物ビジュアル大図鑑』(洋泉社MOOK)
 ムックなので、比較的お手頃価格(1300円)で手に取りやすかったです。全ページカラー。

『シーラカンスの謎 陸上生物の遺伝子をもつ魚』(安部義孝、岩田雅光)
 魚が陸に上がる進化の過程を体系的に見たい方向け。ふりがながふってあるので子供向けかと思いきや、高校生物+αくらいのことは説明しています。

 瞳子が遊砂のことをティクターリク、と評したのは第一印象でしたが、これは読み進めるうちに説得力を増していきます。もし彼女らの挑戦を「陸に上がる」ことにたとえるのだとしたら、遊砂はまさに先陣を切った。
 そして、この先何度も同じような生徒が出るとしたら、何回目かで成功する “瞳子” と “遊砂” もいるのではないか。私は、あの謎めいたエピローグには、希望ではないけれど、胸のざわめきを感じます。

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◆森深紅『アクエリアム』について

◆『アクエリアム』の水彩イラストと、四季デザインラフ。

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