春のホンまつり

 春といえばパンまつりだ。
 菓子パン等についているシールを集めると、白い皿がもらえるあれだ。

 友人がパンまつりのシールを集めているというので、頼まれないうちから勇んで協力を申し出た。もちろん見返りなどない。たのしそうだからである。
 そしてさらに、頼まれてもいないのに「春のホンまつり」なるブックリストをつけて送付した。

月島物語と大人のための国語ゼミのイラスト紹介

 あきれてるかな。

 ちなみに、春を意識した選書ではなく、単に私が最近読んでおもしろかった本です。

 四方田犬彦『月島物語』は「なにを読まされてるんだかわからないがとにかく面白い」という稀有な本でした。こういう本に出会えてうれしい。エッセイというには探究的で、論考というには情緒にあふれ、日記かと思えば突然フィールドワークが始まる。しかしそのやり方が、月島の空気と歴史をくまなく描きだしていて、一冊読み終わるとふう、とため息が出ます。いい旅行から帰ってきたときの充実感がある。月島は東京都中央区にある古き良き下町です。知らない方もぜひ。

 野矢茂樹『大人のための国語ゼミ 増補版』は「相手に伝わる論理的な文章を書きたい」と思う人にとって確かに最強のテキストだけど、最強すぎて哲学の地平まで突き抜けてしまっている。好著です。著者は岩波文庫の『論理哲学論考』(ウィトゲンシュタイン著)の訳者でもあります。小手先の技術ではないものが学べます。

 宮沢賢治『春と修羅』からは“春と修羅”や“永訣の朝”がよく引用されますが、それ以外も賢治は修羅なのでおすすめです。私は東北に伝わる剣舞(けんばい)を描写した“原体剣舞連”が好き。「こんや異装のげん月のした」から始まる剣舞の緊張感が「打つも果てるもひとつのいのち」(しかしどうやったらこんなフレーズで世界を切り取れるのか……)まで途切れない。非常にロックで、同時に、土俗的な世界を丸ごと抱え込む深さがあって戦慄します。『春と修羅』をまともに読むと、賢治が「初めて会うやばいヤツ」に見える。でも考えてみれば賢治はいつもそうか。

 松岡心平『宴の身体 バサラから世阿弥へ』は中世芸能史に興味がなくても、匿名、アジール、無縁、アクロバット、といった言葉に反応してしまう向きにはおすすめ。油断していると論の射程は現代にまで飛び出してきます。まさに自由自在の猿楽の動きです。
 中盤で、大きな枝垂桜の木の下で行われる「花の下連歌」の話が出てきます。そこでは身分や名前は問われなかった。むしろ隠されたのです。桜のベールが俗世と無縁を隔てる役割をしていた。そう思って枝垂桜を見ると、あの中はちょっと別世界のような感じがします。入ったら姿が消えてしまうかもしれない。
 
 このペーパーの主線はコピックマルチライナーの「ワイン」で引いてみました。買っておきながら長く使いどころのなかった色でしたが、淡い塗りになじんでくれますね。
 春なのでした。

 お皿はもらえたかな。

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