水彩の技法のひとつで、バックランという、多めの水で絵の具の粒子を追いやって作るにじみがあります。上手くいくと、紙の上に花火が広がったようできれいです。下に塗った色の湿り具合や、筆につけた水の量、画用紙の目などに左右されるので、上手くいかないこともあります。
私も今までは運を天に任せてきました(いいかげんだなー)。……ですが、先日、どうしてもバックランを成功させたい作品がありました。

これです。自家用CDジャケットを作りました。吉松隆の“プレイアデス舞曲集”。
吉松隆さんはNHKの大河ドラマ“平清盛”の音楽を担当したことでも知られる現代音楽の作曲家です。その“プレイアデス舞曲集”はピアノで演奏される、素朴で、静謐な作品。曲によってはスピード感とエネルギーに満ちていて楽しい。現代音楽らしくリズムは複雑だけれど、それを感じさせないのが不思議なところです。
舞曲、とついていますが、これはきっと人間が踊るための曲ではない。
プレイアデス(すばる)の名の通り、生まれたばかりの星が踊っているような音がします。
銀河や星雲を描くのに、白く抜くマスキングや絵の具を弾き飛ばすスパッタリングも考えましたが、この作品の「広がる」エネルギーを表現するんだったら、やっぱりバックラン……うーん、やってみるか。
練習してわかりました。紙が最初の色を吸い込み始めたくらいのタイミングで、しっとりした筆で水を置いていくのがいいようです。筆はらせんを描くように力をかけず動かす。
細目の画用紙のほうがきれいに出ます。紙の凹凸に絵具の粒子がせき止められにくい。今回はコットマンの細目を使いました。
追記)理科的なおまけ。プレイアデス星団は、生まれてから6000万年程度の、恒星の中では若い星の集まりです。タイトルに触発されて、ふと、恒星が生まれるときってどうなってるんだっけ、と手元の本をめくってみたところ、
恒星は星間雲が収縮した結果、生まれる。星間雲に密度のむらがあると、密度の濃い部分はみずからの重力で収縮を始める。
数研出版編集部編『もういちど読む数研の高校地学』p.332より
実際には「縮まる」エネルギーで星が生まれる。
広がれバックラン!と念じてたけど、思ってたのと逆だった。



コメント
石井さんは多彩な(多才な)バリエーションをお持ちの方なのですね。
スキルにせよ見識にせよ気質にせよ、そのグラデーションしから織り成される表現を、近頃楽しみにさせて頂いています。
恐縮です。更新ペースはゆっくりですが、またお越しください。
寒宵堂は散らかってます。小説や絵の話に、生物学や地学、神話や音楽の話が混ざりこみます。紙の上で混色するように。たぶん、こんなに調べ物がしにくいのではweb記事としては失格です。
でも大体、好きな本や、好きな音楽は手強い。真っ向から作品について語ろうとすると、疲労困憊します。
だからなんとか、ほかの話に寄り道したり、似ているほかのものを引き合いに出したり、メタファーやアレゴリーを使ったり、絵を描いたりしながら、近づいていこうとしています。