「再開を祝して、ロシア式の挨拶で」
五條瑛著『星条旗の憂鬱 情報分析官・葉山隆』p.231より

1話目から日米地位協定の話でやられた!
首根っこつかんで揺さぶられたような心地で、一気に目が覚めた。そうだった、五條瑛はこういう書き手だった。
エスピオナージュ(謀略小説)を一番読んでいるのってどの年代層なんだろう。まあ、少なくとも10代ではないでしょう。しかし、私が五條瑛に出会ったのは15歳のときでした。「悪友」であった雑誌・“活字倶楽部” で紹介されていたから。それは特に啓蒙的、教育的な意図はなく(あいつにそんなものあるもんか笑)、「これかっこいいよ!上司マジイケメン!」というノリで。
結果として、五條瑛は大陸・半島・列島、そしてアメリカを丸ごと俯瞰する視点を、15歳の子供に貸し与えてくれたのでした。これは、どんな社会科の授業よりも効いた。
主人公の葉山隆は、表向きには「極東ジャーナル」という東京飯田橋の小さな出版社の社員。その実、アメリカ国防省情報機関のHUMINT(人的情報収集活動)担当官。ターゲットとなる人物と直接接触し、情報を引き出し分析することを任務としている。葉山の父もまた、そうだった、らしい。拳銃自殺した父のことを、葉山はよく知らない。けれども引き寄せられるようにこの世界に来てしまった。
葉山の直属の上司で百戦錬磨の情報部長・エディ、アメリカ海軍横須賀基地所属の捜査官でよき親友・坂下冬樹、得体のしれない半島の二重スパイ・洪敏成、そして神出鬼没に暗躍する「革命家」・サーシャ。各国の、そしてそれぞれの思惑が交錯する諜報戦が幕を開ける。
いきおいあまって「鉱物シリーズ」全体のあらすじを書いてしまいましたが。本書はシリーズの短編集なのですが、ここから読んでも大丈夫です。
一作目はこれ。
二作目はこちら。
復刊して手に取りやすくなってます。
今回描いたイラストは、葉山本人よりもカサブランカと背景に時間がかかってしまって難航しました。特に背景に何を入れようか悩みました(計画性なく描いたからだ)。最初は、元となったシーン通りホテルの壁紙的なものを置こうかな、と思っていたのですが、しっくりこなかった。
五條瑛作品と言えばなんだろう、何か象徴的なものを、と考えていて思いついたのが、地図。日本列島を極東(ファーイースト)として見る地図でした。「極東」。この言葉には地理的な意味だけでなく、近現代の歴史の重さがついてまわります。五條瑛はまさにその「極東」をとらえよう、描ききろうとしている作家です。デビューからずっと。
そういうわけで、そっと、背景に入れてみました。
追記:以下やや読んだ人向け。葉山にサーシャが手渡すカサブランカというユリのことについて。
ユリはバラほどではないが人の手によって熱心な品種改良がされていて、多くの園芸品種がある。カサブランカは日本原産のヤマユリやカノコユリといったユリをベースに、北米で複雑な交配を経て作り出された。このようなユリをオリエンタル・ハイブリッドと総称する。
これを描くために図書館でユリの専門書をめくっていて偶然知った。なんてこった。これ以上ないくらい葉山ぴったりじゃないか。そんなヘッドハンティング、もはや勧誘じゃなくて……脅し……。







コメント
石井菱砂さま
2020年8月5日 小学館 から 「パーフェクト・クオーツ 北の水晶」が出ます。
ご一報まで。
https://www.shogakukan.co.jp/books/09406790
>>1
お知らせありがとうございます。鉱物シリーズ新刊、しかも長編の。こんな日がまさか来るとは。
そしてその情報を通りすがりの方から突然いただくなんて、ちょっと謀略小説みたいで胸が躍りました。去り際に手渡された丸めたメモのようですね。光栄です。