機能と構造がよくわかる精密な図解イラストが好きです。一方で、作者の心の動きが伝わるエモーショナルなイラストエッセイも好きです。
その二つの魅力が合体した「図解イラストエッセイ」と呼びたいようなものがあり、これがいっとう好きなのです。速水螺旋人さんのミリタリーイラストエッセイや、水玉蛍之丞さんのお人形やアニメのイラストエッセイ、それから有名どころではアニメ監督の『宮崎駿の雑想ノート』など。そんな方々には及ばないけども、私も描きたい。描いて、機能と構造と魅力をいちどに伝えたい。

ところが、このティーカップのイラストを年上の知り合いに見せたら、「あらいいわねえ、味があって。とくにこの文字」というコメントをもらいました。
えっ、文字……って、このへなちょこな書き文字のこと??ただのゲルインキボールペンでこまこま書いたやつ?
そんなことを言われたのは初めてでした。私は、自慢ではありませんが上手いとはいえない字を書きます。家族は渋い顔をします。書道の授業中はいつも「早く終わんないかなあ」と願っていた人間です。イラストに添える文字も、ソフトを使って打ち込んだ方が読み手に親切だし見栄えがすると思っていました(学生時代は時間があったのでそうしていました)。
でも、思い出すと、速水螺旋人も水玉蛍之丞も、ほか私が子どもの頃好きだったミリタリー雑誌や野鳥雑誌のイラストレーターも、ほとんど文字は手書きで、しかも自分のフォントと言うべき完成度の高い文字を持っていました。とくにミリタリー絵描き諸兄の、専用のテンプレートがあるんじゃないかと思うほど揃った文字の工業的なかっこよさよ。彼らのフォントで誌面が埋め尽くされるのを見るのは幸せでした。もしあれが何かの都合で突然活字に変わったら、がっかりしたでしょう。今でもきっとがっかりします。
書道として(あるいは社会人として)上手いかどうかは関係がないのです。イラストを描く人は自分の線を持っていて、それが文字に現れます。書き文字もイラストの―表現の一部です。言われてみればそうだ。

ところで、これは私信の一部です。ミリタリー雑誌へのリスペクトを込めて描きました。この分野に「図解イラストエッセイ」が多いのは、服を描くにしても普通のファッションイラストに比べて「なんでそんな形してるか」をわかるように描かなきゃだからでしょう。トレンチコートの袖(下図)でちょっとチャレンジしてみています。

これを描いた時に、手書き文字がイラストの延長であることの力を実感しました。
ウクライナ戦争が開戦した後のことだったので、私信にしてもこんなものを描いていていいのか、と思いつつ描いていたわけですが、かっこいいと思ってベレー帽を描いている私も「一人でも多くの人間に生きて帰ってきてほしい」と書いている私も、どちらも本当です。私は戦争が嫌いですが軍装が好きです(ええ……)。それが、書いていて自分ではっきりしました。イラストと書き文字の間に段差がないからです。イラストに続けて本音が引き出された感じです。
「手書きの文字は気持ちが伝わる」というのは、(書き文字に渋い顔をされてきた人間としては)文房具会社の方便じゃないかと勘繰ってしまいますが、手書きの文字と個人の思念が近いところにある、というのは、実感として正しい気がします。
自分のフォントで話すことで広がる世界がある。外にも内にも。




コメント
更新を楽しみにしていました。イラストと書き文字の関係、とても興味深く読ませて頂きました。ありがとうございます。 昔、妹尾河童著の「河童が覗いたインド」という本をじっくり読んだのですが、それも手書き文字でした。緻密なイラストによく合う、整った書体でした。
私はお手紙を書くのも読むのも大好きです。日記にイラストを添えると、読み返した時に、描いた時の気持ちが鮮やかに蘇ります。
>>1
コメントありがとうございます。手書きの文字を見つけるとうれしくなりますよね。またいろいろ遊んでみようと思ってます。最近考えているのは、文字の色を変えてみることです。色とりどりに。
妹尾河童さんのフォントと見まごうほどの文字は私も好きです。
先日突然xが見られなくなったためこちらより失礼いたします。先月はコメント返しをいただき恐縮です。
文房具と軍事は手書きが似合う二大分野につき手書き風フォントは違うと個人的に思います。それにしてもこんな豪華な私信を受け取る方が羨ましいです。
意外なものがお好きで驚きましたが制服一大分野ですし苦手なら月村作品を読めませんね…。
私が読んでいるのは黒井小梅中島速水フクダ辺りです。昨日は某潜水艦映画を観てモヤりました。
>>3
コメントありがとうございます。ミリタリーが面白いなと思ったのはたしかマンガ『ヘタリア』(日丸屋秀和著)がきっかけだったと思うのですが、活字倶楽部が「自分が対象読者に入ってなさそうな本を臆せずに読む」ことの後押しをしてくれたことが大きかったです。そう、制服も好きです……月村作品が好きなことも覚えていてくださって驚いています。